Part5 クレジットカード会社編(1)年間30兆円を超すカード取引,その背後にある仕組みを理解する 瀬尾 利数 野村総合研究所
カード大国である日本では,発行カードは2億6000万枚,取引額は年間34兆円に達する。銀行系や信販系に加え,流通・製造・鉄道・航空など,異業種からのカード事業参入も活発だ。便利なカード取引を実現するための,基本的な業務の仕組みとシステムの概要を解説する。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/lecture/20070228/263570/?P=1&ST=lecture
あなたの財布の中には,何枚のクレジットカードが入っているだろうか? JCBやVISAといった海外でも通用するカード,百貨店やスーパーのポイント機能付きカード,航空会社のマイレージ機能付きカードなど,何枚ものカードを使い分けている読者も多いだろう。
わが国におけるクレジットカードの歴史は,それほど長くない。日本で唯一,国際ブランド(後述)を保有するカード会社であり,日本最大の会員数(2005年度末時点で5770万人)を誇るJCBが1961年に設立されてから,まだ40年あまりが経過したに過ぎない。
しかし,カード会社同士の激しい会員獲得競争もあって,今やカード発行総枚数は2億8900万枚,成人1人当たりの保有枚数は2.8枚(いずれも 2005年度末時点)を数える,世界有数のカード大国へと発展した。カード取引による取扱高も順調に伸び続け,業界全体で年間35兆円(同)に達している。
日常生活にすっかり浸透した感のあるクレジットカードだが,小さなプラスチックのカードを提示するだけで,世界中どこでも買い物やキャッシングができる仕組みをきちんと理解している読者は,意外に少ないのではないだろうか。そこでPart5から4回にわたり,カード取引を支える業務の仕組みや情報システムの概要,新しい情報技術がカード業界に与える影響などについて解説していきたい。なお,本講座では特に断りのない限り,「カード」はクレジットカードを意味するものとする。
決済手段を超えて広がる用途
まずクレジット業界全体を概観しよう。日本でカード事業を展開する主なカード会社を,母体企業の系列ごとに分類して表1にまとめた。
表1●主なクレジットカード会社の概要
表1●主なクレジットカード会社の概要
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カード業界は当初,銀行系と信販系という2つの業界の企業群を中心にすみ分けられていた。銀行系カード会社は母体行の銀行口座に付随する決済サービスとして,信販会社は個品割賦(商品購入ごとに契約する分割払い)に代替する与信サービスとして,それぞれカードを位置づけ,普及に努めてきた。
1990年代に入ると,流通系カード会社が“年会費無料”やポイントサービスを売り物に小売店頭での会員獲得に乗り出し,次第にシェアを伸ばした。近年では,電気・ガスをはじめとする公共料金の支払いや,高速道路や病院の料金支払い,さらには税金の納付にまで,カードの利用範囲は急速に拡大しつつある。
こうした状況を背景に,日本航空,JR東日本,トヨタ自動車,イトーヨーカ堂といった,様々な業界を代表する企業も続々とカード事業に参入した。最近では,インターネット・ショッピングとのシナジー効果を狙うヤフーや楽天,「おサイフケータイ」を標榜するNTTドコモまでが本格参入を表明するなど,その勢いは止まりそうにない。
オンラインで取引を承認
このように,カード会社の業態は様々だが,クレジットカードによる取引の基本的な仕組みは同じである。図1を見ながら,その仕組みを説明しよう。
図1●カード取引の流れ(ショッピングの場合)と,クレジットカード会社の基本的な業務
図1●カード取引の流れ(ショッピングの場合)と,クレジットカード会社の基本的な業務
会員へのカード発行にかかわる「イシュア(Issuer)業務」と,加盟店の開拓・管理にかかわる「アクワイアラー(Acquirer)業務」がある
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あなたがカード会社の「会員」となり,「加盟店」の1つである書店で買い物をし,カードで代金を支払ったとしよう。このとき書店はあなたに対して,商品の代金に相当する「債権」を保有することになる(あなたは書店に対して「債務」を負う)。
カードによる決済は,書店があなたに対する債権を,カード会社に譲渡することで可能になる。すなわち「債権者」の移転により,あなたが買った本の代金は,「債権」の対価としてカード会社から書店に支払われる。同時にカード会社は,「債務者」であるあなたに対して,支払いを直接請求できるようになる。
もちろん,カード会社は加盟店から債権を無条件で買い取るわけではない。あなたがカードで買い物をした場面を思い浮かべてほしい。店頭のレジでカードを差し出したときに,店員がそのカードを小さな端末に通し,しばらくすると端末からレシートのような伝票が出力されるのを目にしたことがあるだろう。
実はこのわずかな時間に,あなたのカードが使われようとしていることがオンラインでカード会社に伝えられ,カード会社のシステムで「そのカードは本当に自社が発行した有効なものか」,「あなたの信用度に基づいてあらかじめ設定しておいた利用限度額の範囲内か」といったことを総合的に判断し,債権買い取りの可否を加盟店へ通知しているのだ。
この買い取り承認の通知を「オーソリゼーション」と呼ぶ。いったん買い取りが承認されれば,最後にあなたが伝票にサインをすることでカード決済は完了する。以上がカード取引の基本的な仕組みである。
たとえあなたが世界中どこのお店にいようと,この仕組みは同じだ。一見単純に思えるカードによる買い物が,きわめて高度なシステムと世界中に張り巡らされたネットワークによって支えられていることがイメージできただろうか。
5つの「国際ブランド」
ここまでの説明で,カード取引の過程には,(1)カード会社と会員とのやり取り,(2)カード会社と加盟店とのやり取り,という2つの流れがあることに気付かれたと思う。カード会社が手がける業務のうち,前者を「イシュアー(Issuer)」業務,後者を「アクワイアラー(Acquirer)」業務と呼ぶ。
ほとんどのカード会社は両方の業務を行っているが,カード会社が独自に加盟店を開拓するのは効率的ではない。まして全世界に加盟店網を広げていくのは非現実的だ。
そこで重要になるのが「JCB」,「VISA」,「MasterCard」,「AMEX(アメリカン・エキスプレス)」,「ダイナースクラブ」という5つの「国際ブランド」である。世界中どの国のカード会社であっても,これらの国際ブランドのいずれかに所属することによってのみ,全世界で使えるカードを発行できる。実際,自社の店舗でしか使えない「ハウスカード」を発行する百貨店系カード会社などの一部を除き,どのカード会社も,いずれかのブランドマークを付けたカードを発行している。
各カード会社は加盟店を開拓して契約を結ぶ際に,自社が所属する国際ブランドの加盟店にもなってもらう。これにより,例えば三井住友カードが開拓した加盟店でも,UFJニコスが開拓した加盟店でも,VISAのマークが張ってある加盟店である限り,両社の会員はもちろん,VISAのブランドマーク付きカードを発行するすべてのカード会社の会員が利用できるのである。
中核はクレジット基幹システム
では,カード会社のイシュアー業務とアクワイアラー業務を支える情報システムは,どのようなものだろうか。
カード会社のシステムは,業務の根幹を成す「クレジット基幹システム」,および6つのサブシステムから成る(図2)。クレジット基幹システムの中核には,会員の情報を管理する「会員マスター」と,加盟店の情報を管理する「加盟店マスター」が存在する。さらに,各種商品ごとの利用履歴や売上情報,請求情報などをデータベースで管理し,先に述べた会員や加盟店とのやり取りのすべてを処理する。まさにカード会社の“心臓”と言ってよい。
図2●クレジットカード会社の一般的なシステム構成。 「クレジット基幹システム」を中核に,6つのサブシステムがある
図2●クレジットカード会社の一般的なシステム構成。 「クレジット基幹システム」を中核に,6つのサブシステムがある
各システムの主要な機能とデータベースを示した。矢印はシステム間の主な情報連携を示す(詳細はPart6以降で解説)
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クレジット基幹システムを国内外の加盟店の端末や提携金融機関のCD/ATM(現金支払機/現金自動預け払い機)といった外部システムとつなぐための「対外接続システム」は,専用の無停止型コンピュータで運用している。ここに「オーソリゼーション」の機能も持たせることで,24時間365日のカードサービスを実現している。
一方,カード会社の“頭脳”にあたるのが「入会審査システム」と「途上与信・不正検知システム」だ。これらのシステムは,会員1人ひとりの信用リスクを独自のアルゴリズムで判断することにより,入会の可否の判断,適切な利用限度額の設定,虚偽や不正利用の検知,といったリスクを管理している。
カード会社の多くは会員との対面による接点を持たない。このため各社は,「コールセンター・システム」の機能拡張や品質向上に力を注いでおり, CTI(Computer Telephony Integration)システムも他業界に先駆けて導入した。延滞債権の督促・回収には独自のノウハウやルールが必要なため,通常のコールセンターとは別に「延滞債権管理システム」として運用している。
最後に,ますます重要性が高まっているのが,DBM(データベース・マーケティング)システムである。カードの利用促進や解約防止を図るため,会員の属性や利用情報を詳細に分析できるように,大規模なデータ・ウエアハウスと高度なデータ・マイニング・ツールを備えるカード会社が増えている。これらは,会員ごとにカスタマイズしたメッセージを利用明細書に印字したり,カードの利用状況から趣味や嗜好を類推してダイレクトメールを送付する,といった「One-to-Oneマーケティング」による収益向上に貢献している。
キャッシング依存の収益構造
以上のような仕組みのおかげで消費者はカードを使って便利に買い物ができるわけだが,それに伴うコストは加盟店が負担し,利用代金の3%程度を「加盟店手数料」としてカード会社に支払っている。カード会社はこの手数料をもとに,自社の人件費やシステム経費はもちろん,利用明細書の作成費用やその送付にかかる郵送料,さらには銀行へ支払う口座引落手数料まで,そのすべてを賄っているのである。
しかし,加盟店が支払う手数料の全額をカード会社が受け取るわけではない。JCBやVISAインターナショナルといった国際ブランドの保有会社/団体に対する「ロイヤルティフィー」が差し引かれる。会員が買い物をした加盟店が自社で開拓したものでない場合には,その加盟店を開拓したほかのカード会社への手数料も差し引かれる。さらにカード会社の多くは,カード利用を促進するためのインセンティブとして,利用代金の0.5%程度のポイントを会員に与えている。その結果,カード会社にとって「カードショッピング」から得られる利益は決して十分なものではない。
にもかかわらず,クレディセゾンやイオンクレジットサービスといった大手カード会社が数百億円に上る営業利益を計上しているのはなぜだろうか。実は,こうした好決算のもとになっているのは,「キャッシング」と呼ばれる無担保ローンなのである。実際,利益の60%以上をキャッシングに依存している大手流通系カード会社もある。
キャッシングのビジネスモデルは,いわゆる消費者金融会社と変わりはない。すなわち,会員がカードを提携金融機関のCD/ATMに挿入することで,あらかじめ設定されている限度額までの借り入れが可能になる,というものである。ただしクレジットカードの場合は,(1)カード発行会社のブランド・イメージが相対的に良いため,安心感がある,(2)既に保有しているカードをそのまま使えるため,急に資金が必要になった場合でも便利,(3)全国の銀行や郵便局とのCD/ATM開放契約によって,いつでもどこでも利用できる,といった点が消費者から強く支持されてきた。
しかし,このことはカード会社の経営における不安定要素ともなっている。その理由は2つある。
1つは,カード会社の収益の大部分が,会員全体の10~20%に過ぎない無担保ローンの利用者に委ねられていることだ。こうした会員は複数の会社からローンを借り入れていることが多く,カード会社のローン商品の貸倒れ率は5%以上と高い。近年の自己破産者の増加は,カード会社の経営を圧迫するだけでなく,社会問題としての非難も招きかねない。
もう1つの理由は,実質年率28.0%程度と,「グレーゾーン金利」(「知っておきたい業界用語」を参照」)の中でも法定上限スレスレに設定されていた貸付金利が,既に決まった法定上限の引き下げで,20%へと低下を余儀なくされることだ。一方で,遠からず予想されるゼロ金利時代の終焉は,カード会社にとっては貸付金の調達コスト上昇に直結する。このため今後は無担保ローンの利鞘が大幅に縮小していく可能性が小さくない。
“キャッシュレス・サービス”を標榜するカード会社の経営が,実はキャッシュ(現金)を貸し付けることで成り立っている,という皮肉な現実がここにある。もっともカード会社の多くは,こうした“ねじれ現象”を解消するべく,利用場所の拡大によってショッピング収益の強化を図る一方,コールセンターや与信審査のノウハウを生かしたアウトソーシング・ビジネスなど,新たな収益基盤の確保に向けて努力を続けている。
知っておきたい業界用語
グレーゾーン金利
無担保ローンの貸付金利を規制する法律には,「利息制限法」と「出資法」の2つがある。カード会社のキャッシングにおいて一般的な貸付金額である元本100万円未満の場合,利息制限法では貸付金利の上限が年率18.0%と定められているが,出資法では年率29.2%が上限となっている。上限を超える金利で貸し付けた場合について,出資法には罰則規定があるが,利息制限法では「上限金利を超過する部分の金利を無効とする」旨の規定しかない。
このため,利息制限法の18.0%を超える部分を“利用者が任意で契約した”と見なすことで,出資法上限を超えない水準,すなわち「18.0~29.2%」の範囲で貸付金利を設定するのが一般的になっている。これを「グレーゾーン金利」と呼ぶ。
しかしながら,先の法改正により上限金利が20%に引き下げられることとなった。
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